研究室紹介

教育心理学研究室とは

学びの特色

 教育心理学研究室では、社会における個人の情緒的·社会的発達とそのつまずき、そこからの回復の道筋と方法について実践的研究を進めています。とくに非行·犯罪·暴力行為が個人と社会にどのような影響を及ぼすのか、それらの影響からの回復をどのように支援できるかに主眼をおき、認知行動療法やグループ・アプローチなどの具体的な方法から、支援の質を高めるためのコミュニティと社会の役割、環境のつくり方など幅広いテーマを検討します。精神病理や障害に焦点を絞るのではなく、ポジティブな人間の機能を強調するポジティブ心理学の知見についても学ぶことができます。

 2018年度より公認心理師養成に対応したカリキュラムを組んでいます(Q&A「公認心理師は取れますか?」を参照)。医療·保健、教育、福祉、司法など多岐にわたる活動領域の学生が在籍していますので、互いの専門性を生かした裾野の広い議論をすることができます。

キョウシンの理念

 暴力のサイクルから抜け出し、回復するために、トラウマの影響を理解しながら関わるトラウマインフォームドケア(TIC)や、個人にのみ責任を負わせるのでなく、家族や学校、コミュニティ、社会の一人ひとりが責任を分かち持って問題に取り組んでいく社会を作るという修復的司法の理念を重視しています。このような価値観は、教育心理学研究室(略して「教心(キョウシン)」)の運営にも取り入れられています。日常の研究室の活動においても、サークルと呼ばれるお互いの気持ちや考えを分かち合うグループ体験を通して、みんなで育ち合う場を作ることを目指しています。

豊かなフィールド体験

 質問紙調査等の量的研究およびインタビュー等の質的研究による心理学研究法について学びます。グループ研究により、年間に2つの調査研究の計画・実施・発表を行います。また、フィールド(臨床現場)に出て、実際に非行少年や被虐待歴を持つ子どもへの関わりを学びます。主なフィールドは、児童相談所や児童自立支援施設といった児童福祉領域です。

キーワード:トラウマインフォームドケア(TIC: Trauma-Informed Care), ポジティブ心理学(Positive Psychology), アディクション(Addiction), 逆境的小児期体験(ACE: Adverse Childhood Experience), 児童福祉(Child Welfare/Child Protection),修復的司法(Restorative Justice), 治療共同体(Therapeutic Community), グループ(Group), 非行(Juvenile delinquency), 犯罪(criminal), 離脱(Desistance), 性暴力(Sexual Violence), 支援者・組織のウェルビーイング(Staff/Organizational Well-being)

メンバー

教員

教授 野坂 祐子(のさか さちこ)

お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 人間発達科学専攻 博士後期課程(単位取得後退学)。人間学博士(武蔵野大学大学院)。
2004年 大阪教育大学 学校危機メンタルサポートセンター 講師、2009年より同センター 准教授。
2013年 大阪大学大学院 人間科学研究科 臨床教育学講座 教育心理学分野 准教授。2023年より同研究科 教授。
臨床心理士、公認心理師。

社会活動として、日本トラウマティック・ストレス学会理事、一般社団法人もふもふネット理事、一般財団法人日本児童教育振興財団内 日本性教育協会(JASE)運営委員、大阪被害者支援アドボカシーセンター専門支援員 他。

研究分野

発達臨床心理学、トラウマ研究

研究テーマ

トラウマ(主に性暴力)やジェンダーに関心を持ち、実践と研究を行っています。トラウマは、被害者に対してだけなく、あらゆる人に影響を与えるものであり、社会の変化が安全の回復の鍵になると考えています。トラウマの視点から人々の行動や関係性を捉えるトラウマインフォームドケア(Trauma Informed Care:TIC)のアプローチによって、教育的課題に取り組んでいます。学校臨床やHIV/AIDSなどの性の健康に関する実践も行っています。

講師 直原 康光(じきはら やすみつ)

筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻修了。博士(生涯発達科学)。
2007年 家庭裁判所調査官補として採用。2009年より家庭裁判所調査官として、松江、長崎、東京、神戸家庭裁判所勤務。
2019年 裁判所職員総合研修所教官(兼務)。
2021年 富山大学 学術研究部 人文科学系 講師。
2024年 大阪大学大学院 人間科学研究科 臨床教育学講座 教育心理学分野 講師。
公認心理師。

研究分野

司法心理学、発達精神病理学、家族心理学

研究テーマ

親の離婚を経験した子どもたちの心理的な適応のリスク因子や防御因子について、実証データに基づく研究をしています。また、離婚時の親子に対する情報提供や心理教育の実践も行っています。詳細は、個人ホームページをご覧ください。

学生

B3

  • 岡本 奈々
  • 木下 苑子
  • 篠原 里桜
  • 新谷 萌
  • 田井 歩佳
  • 田村 優奈

B4

  • 岸本 慶太
  • 辻 拓真
  • 楢崎 結大
  • 藤村 恭子
  • 森田 結美
  • ほか1名

M1

  • 上野 洋弥
  • 原 梨花子
  • 古屋 和奏
  • 横井 紀歩

M2

  • 齋藤 陽菜
  • 佐藤 茉莉子
  • 羽原 亮
  • 松崎 美奈子
  • 森 愛実

D2

  • 安藤 麻紀
  • 宮野原 勇斗
  • ほか1名

D3~

  • 小形 美妃
  • 小川 恵美子
  • 水野 幸弥
  • ほか1名

    主な授業

    実験実習Ⅰ B2後期(秋冬学期)

     この授業では、「己を知り、他者を知る」をテーマに、自己・他者理解を深め、グループでの繋がりを体験します。前半は、心理検査 (BIG5、TEG、風景構成法、バウムテスト、知能検査(WAIS)、文章完成法、PFスタディ)を自分たちで行い、その分析方法や検査の手順を学びます。後半は、面接法やグループワークの手法を実践することで学びます。教育心理学研究室に所属することが決まって最初の授業で、これから卒業まで一緒の仲間たちと楽しく学びを深めていきます。
    履修者の声:「検査をやってみる体験が楽しかった」、「検査1つでこんなこともわかるのかと驚いた」、「お互いのことがわかり、仲間ができてうれしかった」

    実験実習Ⅱ B3(M1)前期(春夏学期)

     この授業は量的研究について学習します。グループをつくり実際に量的研究を進めていきます。先行研究を読み問題意識を明確にするところから研究結果を報告するところまでを半年で行います。学部生は初めて研究を進めていくことになるので負担は少しありますが、たくさんの新たな学びを得ることになります。特に、調査に使う質問紙の作成や統計ソフトの使い方を学習するので、量的研究で卒業論文を執筆する場合はここで学んだ知識が活きてきます。外部から進学された大学院生もM1前期に一緒に学ぶことができます。
    履修者の声:「ゼミ(後述)もあって大変だった」、「統計の難しさと大切さを実感できた」「研究することに対するイメージが膨らんだ」

    実験実習Ⅲ B3(M1)後期(秋冬学期)

     この授業は質的研究について学習します。グループをつくり実験実習Ⅱで行った量的研究をベースに質的研究を進め、研究結果を報告するところまでを半年で行います。M-GTA法、KJ法などの質的研究の手法を学びながら、研究を進めていくことになります。実際にインタビューや文字起こしを分析することになるので、質的研究で卒業論文を執筆する場合はここで学んだ知識が活きてきます。外部から進学された大学院生もM1後期に一緒に学ぶことができます。
    履修者の声:「グループのメンバーと分析していく過程が楽しかった」、「クリスマス前に必死に分析していたのが大変だった」、「分析のゴールが見えなくて不安だったが、やりきれてよかった」

    学部生ゼミ B3通年

     学部生のゼミは3回生の1年間行われます。前期は研究室にある10冊程度の課題図書(暴力の加害―被害、トラウマ、アディクション、当事者研究などをテーマとした書籍)を毎週1冊ずつ読んで、ゼミで意見や感想を交換します。当事者の方のお話を伺う機会もあります。後期は自分の関心のある論文を持ち寄って、ゼミで共有しながら論文の読み方を学び、レビューを作成します。
    履修者の声:「毎週本を読むための時間をつくりだすのに苦労した」、「面白かったけど、学部生ゼミがあった1年が一番忙しかった」、「このゼミでの学習が、公務員試験や大学院入試に役立った」

    大学院ゼミ M・D通年

     前期は、司法・犯罪に関する理論やトラウマインフォームドな実践などに関する書籍(英語による原著)で、最新の知見を学びます。課題図書を毎週1章ずつ読み進めて要旨と批評をまとめ、ゼミに持ち寄って意見や感想を交換します。後期は自分の関心のある英語論文をゼミで紹介し、ディスカッションを行います。論文を紹介する機会は複数回あります。
    履修者の声:「毎週英語を読んで要旨と批評をまとめるのは大変だが、英語力が向上したと思う」、「最新の国際的な研究に触れて仲間と話し合うことで、学びを深めあうことができる」、「年を重ねるごとに自分の知識や考え方の成長を実感できる」

    ろんがん B4・M2・D通年

     同期と先生が集まって行われる論文指導(「論文がんばろう会」略して「ろんがん」)が月に1回行われます。これまでの自分の進捗状況や成果を同期と先生に報告し、多くの人からアドバイスをもらえる機会です。ろんがんは月に1回ですが、ろんがんの時間以外にも、普段から同期や先輩に相談をしながら、研究を進めています。
    参加者の声:「不明瞭な点を客観的な視点から指摘されるので、研究が進んでよい」、「集団での論文指導なので、ほかの人の発表を聞いて自分の研究に活かせる発見がある」、「自分の進捗報告のための資料を作ったりほかの人の研究に意見を述べたりしなくてはならないため、エネルギーをたくさん使うが、毎回充実した時間になっている」

    主な実習先

    児童自立支援施設 (大阪市立阿武山学園など)

     児童自立支援施設と協働で、子どもの再非行防止と全人的成長を促すためのグループワークを実施しています。非行行動に関わる認知や行動に焦点をあてながら、子どもの逆境的な育ちやトラウマの影響をふまえたプログラムを開発・実践しています。仲間やスタッフとのつながりを体験し、生きていくうえで必要なスキルを身につけることを目指しています。
    学生はグループワークに参加し、取り組みの様子を記録し、カンファレンスに同席することができます。院生はプログラムの開発や評価を行ったり、グループワークの進行(リーダー)を担ったりします。施設の先生方と一緒に子どもに直接関わることができ、貴重な臨床の機会になります。
    本研究室と阿武山学園のつながりは10年以上の歴史があり、研究のフィールドや実習経験の場としても、多くの学生がお世話になっています。

    児童相談所

     児童相談所の共同事業として実施されている性問題行動のある子どもと保護者のグループプログラムに、本研究室も関わっています。子どもグループでは、性暴力の再発防止を目的に、子どもの自立や成長を目指した包括的な治療教育が行われています。保護者グループは同じ立場の保護者同士が話し合える場であり、ピアカウンセリングの要素も持っています。子どもへの関わり方を見直していくことで、家族機能を高めていきます。
    学生は、両グループの記録係として参加しています。児童福祉現場の最前線で働く児童相談所の職員の方々の働きかけを見ながら、グループ・アプローチについて学ぶことができます。

    コリア国際学園 (茨木市)

     本研究室は、茨木市のコリア国際学園にて、中高生を対象にした「人間関係の心理学」の授業を担当しています。当授業は、リベラルアーツ科目の一つとして、生徒に自己や人間関係を見つめ直す機会を提供することを目的としています。グループでの対話を重視した授業形態をとり、自己理解や他者理解を深めるためのワークも多様に取り入れています。感情調整や境界線といったテーマも扱うため、大学で得た知見を心理教育に応用し、授業を立案します。院生のメインメンバーが主に授業案の作成・進行を担当し、学部生を含むサポートメンバーがアイスブレイクの立案・実施、グループワーク補佐や記録などを行います。学部生も積極的に参加しており、授業運営や生徒との関わりを体験する貴重な学びの機会となっています。

    進学・就職先

    学部卒業生の進路

    • 進学 (大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程)
    • 近畿経済産業局
    • 民間の食品系
    • コンサルティング
    • パーソルキャリア
    • ウェディングプランナー
    • 大和ハウス工業

    大学院修了生の進路

    • 進学 (大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)
    • 法務省総合職
    • 法務省専門職(法務技官)
    • 法務省専門職(法務教官)
    • 家庭裁判所
    • 児童養護施設児童指導員
    • 児童相談所(児童心理司)
    • シンクタンク/コンサルティング
    • SAPジャパン株式会社
    • OWLクリニック
    • 民間の心理職
    • ダイハツ工業
    • 社会復帰調整官に復職
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